安永 祥平
インフラ・インダストリー事業ユニット
インダストリー事業本部
開発企画部
事業推進第一グループ(物流・DC)
桑理 航
インフラ・インダストリー事業ユニット
インダストリー事業本部
営業統括部
データセンターグループ
判田 祐樹
インフラ・インダストリー事業ユニット
環境エネルギー事業本部
環境エネルギー事業第一部
事業開発グループ
永田 愛理
インフラ・インダストリー事業ユニット
環境エネルギー事業本部
環境エネルギー事業第一部
事業開発グループ グループリーダー
※所属・部署名は2025年10月1日時点
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石狩再エネデータセンタープロジェクトのはじまり
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プロジェクト開始の背景
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プロジェクト存続の危機と、揺るがない想い
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閉塞感を破り追い風をもたらした、石狩のポテンシャル
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日本全土にデータセンターを広げる前例となるために
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高い信頼を生み出す、東急不動産のカルチャー
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挑戦する企業として、次に見据えるビジョン
桑理
私は2022年度以降、このデータセンタープロジェクトの企画から、社内での事業意思決定、一部設計、工事着工に関わりました。工事着工以降は、建設フェーズを担当する安永さんに引き継ぎ、私自身は役割を変えて、現在はデータセンターに入居するテナント企業の営業(リーシング)に奔走しています。
永田
私は2023年度からプロジェクトに参画し、太陽光発電所の開発を担当しています。参画当初は、データセンターを「再生可能エネルギー100%で運営する」という構想はあったものの、まだ事業意思決定までは至っていない状況でした。ただ、データセンターを事業化する前に、まずは太陽光発電所の開発を進め、テナント企業の誘致を加速させようという方針のもと太陽光発電所の開発から始めたという背景があります。
判田
私も永田さんと同じく、太陽光発電所の開発を担当してきました。データセンターは電気を大量に消費します。そのため、データセンターの遠方に発電所を作るモデルではなく、電気を使う場所の近くに発電所を建設する地産地消/近接モデルが重要視されるようになってきています。
東急不動産は、デベロッパーとしてデータセンターという「箱」の開発をするだけでなく、再生可能エネルギー発電所の開発も行うことができます。行政との連携力も持っている。この事業には大きなチャンスがあります。将来的には、データセンターと再生可能エネルギー発電所をより一体として開発・運営していくことが当社ならではの使命だと思い、取り組んでいます。
安永
私は2024年10月に、工事着工のタイミングからプロジェクトに入りました。桑理さんの考えを引き継ぎ、ゼネコンや設計会社と連携しながら、データセンターの建設を進めている最中です。前職では物流施設の開発をしていましたが、「他のアセット開発に挑戦したい」という思いで転職したので、このプロジェクトはまさにその願いが実現する、大変うれしい機会となっています。
桑理
このプロジェクトには、大きく分けて2つの狙いがあります。1つは国の流れ、特に「デジタル田園都市国家構想」を汲んで、データセンターの地方分散に貢献すること。現在、日本のデータセンターは東京と大阪に集中していて、大規模災害時にデータが失われるリスクがあります。デジタルインフラの強靭化のためにも、国として地方分散を進めたいという強い意向があるわけです。
もう一つは、データセンター消費電力問題の対処です。データセンターは1棟作るだけで、オフィスビルの何十棟分もの電力を消費します。この莫大な消費電力が地球環境に悪影響をもたらすという課題を解決する必要がある。
この集中立地によるリスクと、莫大な消費電力がもたらす環境問題という2つの課題をセットで解決することが非常に重要なポイントとなっています。その両方に挑めるのは、私たち東急不動産ならではだと判断して、プロジェクトのスタートが決定しました。
桑理
実はこのプロジェクト、開始直後から崖っぷちに立たされていました。工事費が当初予算の2倍になっていることに加えて、投資家からはリスクが高すぎると次々に断られ、肝心のテナント企業も決まらないという状況だったんです。加えて、再生可能エネルギー発電の事業化とデータセンター事業化のタイミングをどうするかも決着が付いていない。部長から「もう撤退するか」と言われたとき、正直、心が折れそうでした。でも、ここで諦めたら日本のDXはさらに遅れてしまう。その強い危機感が、プロジェクトを前に進める原動力となっていました。
判田
社内では同じ想いとゴールが共有できている、アグレッシブなメンバーたちが集まっていたので連携はスムーズでした。とはいえ社外、特に投資家に関しては、新規性が高すぎるが故に、説得に時間がかかる状況が続いていました。
永田
当時は、太陽光発電所の開発担当として、データセンターの事業化が必須であるため、桑理さんに「そろそろ出資額集まったよね?」とやり取りする毎日で。ヒリヒリする時期を一丸となって乗り越えての今だと実感しています(笑)。
桑理
危機的状況は幾度となくありましたが、このプロジェクトは、非常に大きな可能性を秘めています。
その一番の理由は、石狩という土地が持つポテンシャルの高さにあります。国は、東京・大阪に集中しているデジタルインフラのリスクを補完・代替するため、北海道を第三、第四の中核拠点として整備を促進する方針を打ち出しています。中でも石狩は、札幌市中心部からのアクセスが良く、地方分散を推進していくうえで、最適な場所なんです。
そして私たちのプロジェクトは、データセンターの地方分散及びカーボンニュートラルの推進に寄与する事業として、道内で唯一、総務省の助成事業に採択されています。この全国初のプロジェクトが成功すれば、データセンターの現状を変え、日本全土にデータセンターが広がっていく流れが生まれる。日本のDX強化の足がかりになるんです。
永田
再生可能エネルギー活用の観点でも、石狩には政策的・地理的な強みがあります。データセンターは莫大な電気を使うため、その電力消費と脱炭素化をどう解決するかが重要な課題となります。
石狩市は、環境省が掲げる「脱炭素先行地域」の第1回選定自治体であり、産業誘致を地域内の脱炭素電源を活用して推進することを目指しています。また、都心部に比べて北海道は広大な土地があることから、オンサイト型電源(電気を使う施設の近くに、電気をつくる施設を建設するモデル)を作りやすいという利点もあります。
判田
石狩には、電気を使う施設(データセンター)の近くに、電気を生み出す施設(発電所)を作るというモデルを推進しやすいという強みもあります。石狩エリアでは、自然の気候条件が恵まれているため、既にFITの風力発電所(※)などが営業運転しており、再生可能エネルギーが一定程度集積しています。これらを上手く組み合わせることでより高いポテンシャルを発揮できるエリアであると、今後への期待が非常に高いです。
※FIT
Feed-in Tariff(フィード・イン・タリフ)制度の略。再生可能エネルギーの固定価格買取制度のことで、FIT制度の認定を受け、固定価格で電力会社に売電している風力発電所を指す。
桑理
北海道の人口が集中する札幌市の中心部まで、車で約30分というアクセスの良さも重要です。お客様がいないと始まらない事業ですからね。
世界と比べて、日本は再生可能エネルギーの活用が遅れている現状があります。特にデータセンターのテナント企業に当たるIT業界は再生可能エネルギーに対するリテラシーがまだまだ不足している。地方分散だけでなく、IT業界の脱炭素化にも貢献していきたい。その想いのもと、今回のプロジェクトでは、大口の顧客だけでなく、中小のニーズも拾える「マルチテナント型」を採用しました。
「マルチテナント型」は、データセンター事業では一般的な、大口テナントを決めてから設計に入るという進め方ができないため、リスクはあります。データセンターの事業化が決まる前に、太陽光発電所を先行してつくるという勝負にも出ました。リスクを承知で先行投資を行うこと、脱炭素型データセンター利用において大企業でも中小企業でも経済性が成り立つモデルを提示していくこと、それらが私たちの使命だと考えて、この判断に至りました。
永田
さまざまなポテンシャルがあるとはいえ、石狩は冬になると垂直積雪量が最大1.7mにもなる地域です。そのため、通常のソーラーパネルの架台での設置が難しく、また冬季は積雪のため発電量が少ないという課題がありました。再生可能エネルギー100%運用のデータセンターの実現に向けて、特徴ある太陽光発電所を併設することでシンボリックなデータセンター事業とすること、豪雪地帯であっても、再生可能エネルギーを最大限活用すること、この二つを狙って「一軸追尾型架台」「垂直設置型架台」と呼ばれる特殊な架台を採用しています。豪雪地帯でも高効率の発電を可能にするこの特殊架台の採用は、発電量の最大化及び他地域への波及効果も期待できると思います。
安永
このプロジェクトに関わっていると、行政や事業のキーマンの方々からの、東急不動産に対する期待の大きさをひしひしと感じます。「この事業をもっと大きく育ててほしい」という言葉をいただいた時は、改めて身が引き締まりました。
この期待は、先輩方が築いてきた信頼が高いことの表れでもあるなと感じています。
判田
東急不動産の根底には、どんな困難や逆境があっても、諦めずに「どうしたらできるのか」を発想し、乗り越える文化がありますよね。だから一人ひとりが挑戦に前向きだし、周囲の期待に応える動きができる。
永田
いろんな個性を持った人が集まっていることも大きいですよね。自分が持っていないもの・足りないものは、近くの誰かが必ず持っていると思える。仲間を巻き込んで、輪を広げていくのが、東急不動産の仕事のスタイルなのだと感じます。
桑理
このプロジェクトも、他の事業も同じだと思いますが、現場の担当者が「何をやりたいか」「どうすべきなのか」をみんなに伝えている。そしてそれを会社が応援してくれるカルチャーでずっとやってきたからこそ、会社がここまで大きくなった。上から指示されるのではなく、「こうしたいな」という思いを会社が応援してくれる文化があるんです。
安永
まさにその通りだと思います。キャリア入社してすぐの時期から、やりたいことを自由に言える雰囲気や、「じゃあ、やってみよう!」と背中を押してくれる風土を感じていました。意思決定のスピードが早く、考えたことをすぐに実践できる環境が、挑戦となり、信頼になっていますよね。
判田
この石狩データセンター第1号を通した取り組みは、データセンター事業であり、再生可能エネルギー事業でもあります。この両方を真正面からデベロッパーとして手がけている企業は、東急不動産くらいではないでしょうか。このプロジェクトを通じて、唯一無二な事業モデルの構築にも挑戦したいと考えています。いずれは、この事業モデルを他エリアにも波及させて新たな事業に成長させていきたいです。
永田
各事業フローにおいて、実に様々な立場の人が関わる中、関係者と非常に近い距離感で仕事を推進できているな、という手応えがあります。東急不動産ホールディングスグループ内だけでも、データセンターのビルマネジメント、再生可能エネルギー発電所のアセットマネジメント、電力小売など、多様な機能と役割を持つメンバーと、普段から密接に連携しています。そのおかげで、課題にぶつかっても、相手の仕事の仕方や立場をすぐに理解ができ、解決につなげていける。この内製化が、このプロジェクトを通じてさらに磨かれたのではないかと感じています。
安永
多様な強みを持った人が近くにいるのは、本当に心強いですよね。私は、電気設備を得意とする同僚に、いつも助けられています。プロフェッショナルとして、物件の仕様や商品価値について議論して、結論を出すところまで伴走してくれます。彼のように支えてくれる人が、このプロジェクトにはたくさんいますよね。
桑理
この3年半、毎日が新鮮で学びしかありませんでした。新しいフィールドでの立ち振る舞いや知識の吸収力が問われましたが、最終的に確信したのは、顧客視点の大切さです。
リーシング方法や契約ノウハウの確立に注力している中で、やはりカギとなるのは、お客様のインサイト。これを掴むことができれば、事業の拡大や、石狩以外の土地での再現性にもつながります。
石狩データセンター第1号は、東急不動産の環境配慮や新規事業にかける想いが詰まったプロジェクトです。再生エネルギー100%でのデータセンター運用や地方分散の実現など、社会課題の解決に切り込む手札もあります。これを機にビジネスチャンスを広げ、環境先進企業として、世界に羽ばたくようなイメージを築いていきたいですね。