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「ASEAN事業」篇
タイの現地パートナーと、将来を見据えた物流施設開発に参画

vol.45

2023.05.29

米国とアジアを2本の柱として、各地域の特色やニーズに応じた多角的な事業を推進している当社の海外事業。
今回は、ASEAN・インドなどへの事業展開を行うべく2019年に設立したシンガポール現地法人「TOKYU LAND ASIA Pte. Ltd.(以下TLA)」のおもな取り組みを紹介します。
ここ数年、現地パートナーとの協業で活発なプロジェクト参画を進めている国がタイです。進行中の物流施設開発プロジェクトにフォーカスしながら、タイ事業の可能性、および今後のASEAN事業の展望を、現地駐在員に聞きました。
(本記事は2023年2月の取材をもとに執筆されたものです)

(写真左から)

小島 剛:

戦略事業ユニット海外事業本部アジア事業室グループリーダー兼
TLA現地法人取締役社長
2012~2017年度インドネシア駐在後、2019年度のTLA設立時にシンガポール着任。
ASEAN各国の案件担当。

大野 悠樹:
戦略事業ユニット海外事業本部アジア事業室兼
TLA 駐在員
2021年度にシンガポール着任。タイ物流事業を担当。
小林 雅裕:
戦略事業ユニット インフラ・インダストリー事業本部 ロジスティクス事業部新規開発グループリーダー(当時)
タイ物流事業を本社担当としてサポート。

※担当者の所属部門は、2023年2月時点のものです。

東急不動産の海外展開について ~米国とアジアで5拠点・50プロジェクトに参画~

小島当社では、グローバル化の進展を事業拡大の機会と捉え、海外展開を進めています。
1973年のグアムでの宅地造成を皮切りに、米国およびアジア計9か国での事業実績があり、現在は5拠点で50プロジェクトに参画しています。

米国では、現地パートナーとの協業で、賃貸共同住宅を主なターゲットとしたバリューアド事業(※1)を中心に展開。
一方、アジアでは、デベロッパーとして開発事業を進めるインドネシア拠点、現地パートナーと共同で分譲マンション開発事業を行う中国拠点、リゾート運営事業を展開しているパラオ拠点など、各国の特性にあわせて事業様態もさまざまです。

※1既存建物に対して、リノベーションによるハード面改善、運営見直しによるソフト面改善により、収益性を高めることで不動産価値を向上させ、売却時に差益を獲得する事業。既存建物を改修し使い続けることで、建て替えによるCO2排出や廃棄物を削減できることから、環境に優しい取組みとしても注目されている。

海外全体マップ
海外拠点マップ

ASEANを中心としたアジアでの事業展開

小島TLAは、成長著しいASEANにおける不動産投資事業の中枢を担うべく、2019年に現地法人として設立されました。アジアでは、1973年パラオ、2007年中国、2012年インドネシアに続いて4つ目に設立された拠点です。
同ASEANに属すインドネシアでの事業は歴史も古く、1975年からジャカルタを中心に宅地開発や分譲マンションを自社開発する事業展開をしてきましたが、それ以外のASEANへの事業参画が狙いでした。

シンガポールを拠点にした理由と現在のポートフォリオ

小島ASEAN各国の案件情報、世界各国の投資機構・投資会社が集積し、世界5番目の規模を誇るREIT市場もあるシンガポールは、周辺諸国の経済的HUBとしての機能を果たしています。また諸外国へのアクセスが良いこともシンガポールの特徴です。
情報への感度を高く保ちながら日々活動し、これまでに4か国の事業に参画してきました。

各国での参画状況は、次のとおりです。※以下コンドミニアムは日本の分譲マンションと同義

  • マレーシア:2,182戸のコンドミニアム事業など2件(うち1件は、2018年事業終了)
  • ベトナム:コンドミニアム事業1件(2019年事業終了)
  • タイ:ホテル、オフィス、物流など8件
  • インド:コンドミニアム事業を対象としたファンドを通じた事業5件
Riveria City(マレーシア・コンドミニアム)
Riveria City(マレーシア・コンドミニアム)

変化してきた参画事業の方向性

小島アジアの多くの国では、先進国と比較して不動産マーケットのデータが乏しくEXIT(事業終了)のタイミングや蓋然性を見極めにくいという課題があります。そのため以前は、事業のEXIT(完売)を想定しやすいコンドミニアム事業を中心に、事業参画を検討してきました。
一方で、コンドミニアムは、現地の住宅事情に詳しくなければ、物件の良し悪しを見極めにくいという課題があります。それに加え、コロナ禍でマーケットが不安定となり参画事業の方向性を再検討しました。
そして、中長期的に大きな経済成長が期待できるASEANにおいて、一定のEXITストーリーを見込める賃貸事業を対象に投資を行うことへ、戦略の再構築を行いました。

当社随一の多言語・多国籍チーム

小島TLAには現在、日本人3人、シンガポール人1人、インドネシア拠点から出向のインドネシア人1人、およびタイ現地法人のタイ人1人の計6人が在籍しています。
多国籍編成チームということもあって、日本語・英語・シングリッシュ(シンガポール訛りの英語)・インドネシア語・マレー語・タイ語が飛び交うのが日常。それぞれの文化的なバックグランドが異なるなかで、チーム一体となり事業を推進していかなければならないため、各人のイメージや考えていることにズレが生じないように、日々慎重かつ密なコミュニケーションを心がけています。

タイにおける戦略的事業パートナーとの共同投資事業

小島既に事業参画していたマレーシア・ベトナム(コンドミニアム事業)の次の進出国として着目していたのが、タイでした。他のASEAN各国と比べて人口が多く、街も洗練されており、今後の経済成長の見込みも高かったタイは、事業性が高いと考えました。
現地のパートナー会社を探していたところ、グループ会社である東急リバブルからOrigin Property Public Company Limited(以下オリジン社)を紹介していただきました。
オリジン社は、タイで総合デベロッパーとして急成長している大手上場不動産会社です。2009年に設立され、住宅事業を中心に、ホテル、オフィスなど多角的な事業領域で投資を進めています。将来的にタイREITを使った循環型再投資モデルを構築する戦略を持っていることから、私たちの戦略とも方向性が一致しました。
コロナ禍で面会が難しい状況でしたが、オンラインミーティングなどで関係性を構築し、2021年6月に事業パートナーとして第一号案件となるホテルを中心とした複合開発事業、続いてオフィスを中心とした複合開発事業、稼働中ホテル事業、さらに3件の物流施設開発事業など、2023年2月現在までに8つのプロジェクトに共同参画してきました。

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One Phayathai HOTEL(タイ・ホテル)
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One Sanampao(タイ・オフィス)

新たな試みとなった物流施設開発事業への参画

大野バンコク郊外の物流施設開発事業「アルファバンナープロジェクト」および「アルファランシットプロジェクト」(ともに2022年6月参画)は、多くの点でTLAにとって新たな取り組みとなりました。
それまでタイ事業におけるTLAの事業パートナーは、オリジン社の100%子会社で、ホテルやオフィスのアセットを開発するOne Origin Company Limited(以下ワン・オリジン社)1社のみでした。
タイ事業のさらなる多角化を進めたいと考える中で、今後社会や経済が構造変化するのに伴い、物流施設が社会の重要なインフラの一つとなり、今後物流が経済のゲームチェンジャーとなる可能性を秘めていると考えました。
そこに、オリジン社が50%出資する物流施設デベロッパーであるAlpha Industrial Solutions Company Limited(以下アルファ社)を新たに設立するという話が浮上し、当社もパートナー候補として手を挙げました。

面識のない担当者と一から関係を構築

大野新会社であるアルファ社の実務メンバーとはまったく面識がありませんでしたが月に1度はタイを訪れ、担当者との関係構築や信頼の獲得に努めていきました。
そうした地道な努力が実り物流事業2案件に参画することができました。また、2022年12月には追加で1案件への参画をし、タイ物流事業は現在3件となっています。
タイでは、1社が複数のパートナーと取引することは珍しくありませんが、アルファ社がパートナーシップを組んでいる相手は現在まで当社のみであり、良好な関係を継続できていると言えると思います。

小島実は、オリジン社の前に共同事業を前提としたタイ現地企業との協議が、直前で破断になったことがありました。コミュニケーションやビジネス慣習の違いから齟齬が生じたことが原因でした。タイ人はビジネスにおいても日本以上に階層の違いや、言葉選びにこだわる側面があることを学びました。
そこでオリジン社との協議に際しては、関係構築段階だけでなく契約交渉を進めるうえでもニュアンスが誤って伝わることがないように、タイ人従業員にアドバイスや意見を求めながら、注意深く進めていきました。

本社物流事業部との連携

大野不動産業界の慣習は、国ごとにさまざまに異なります。その前提に立ち、相手と話し合いをする際は日本でのやり方や常識を押し付けるのではなく、何ごとにもパートナー会社の教えを乞うという姿勢で臨みました。
同時に、同じユニット内であるインフラ・インダストリー本部の開発・営業・運営担当者とも小まめにやりとりを行いながら、物流事業への理解を深めていきました。

小林私が担当しているのは、日本国内の物流事業における土地や稼働物件の買収です。タイを含め海外では、日本と環境は異なりますが、物流施設としての基本的な機能や必要条件は大きく変わらないと想定し、立地や施設の概要といった大きなことから、トラックの荷下ろしの計画や、従業員用の駐車場の必要性といった細部まで、国内での一連の流れをベースに、参画を検討するために重要なポイントを確認していきました。

大野事前に東急不動産としてのノウハウとベースを共有できたことで、アルファ社との打ち合わせがスムーズに進められたのはもちろん、プロジェクトの各段階で起こりうるリスクの洗い出しにも活かすことができました。

国内物流ポートフォリオ
日本国内の物流事業物件マップ

海外事業と本社物流事業の連携からさらに広がる可能性

小林タイは発展途上であるため日本と比べてインフラが整っていない部分も多く、それゆえにダイナミックな展開も可能です。
タイへの進出を考えている国内の物流会社も多く、今回参画したタイの物流施設は地理的にASEANの中心に位置することから、当社の物流事業にとってもアジアに向けた事業展開の足掛かりになりえます。
そうした意味でも、タイでの物流施設開発事業は、現地の物流をリードしていきながら、当社も一緒に発展していける良いチャンスであると思います。

小島TLAが拠点を置くシンガポールには世界中から多くの大企業や投資会社が拠点を置いています。そうした企業に、機動的に働きかけられることもTLAの強みです。
それと同時に、日本でのオフィス事業・ホテル事業の知見や物流事業における日系テナントの誘致サポートなどを通じて、現地デベロッパーを支えることも、私たちがパートナー会社であるオリジン社に提供できる大きな価値のひとつだと考えています。今後も関連部署との連携を強めながら、参画プロジェクトへの付加価値を高め、継続性の高い事業展開をめざしていきます。

シンガポール法人としてTLAがめざすもの

小島デベロッパーとして主体的に事業推進を行うインドネシア事業と異なり、TLAのASEAN事業は各国の事業へのマイナー参画が主流です。だからこそ、東急グループ・東急不動産ホールディングスグループならではの知見を活かしたバリューを各事業に付加していくことを常に意識しています。
マレーシアの事業では、東急設計コンサルタントと東急建設からのマレーシア駐在員1人を含むチームで設計・施工アドバイス業務を行っています。
成長著しいASEANのなかには、洗練した建物デザインなどで日本と肩を並べつつある国もあります。他方で、当社グループが日本で培ってきた知見を活かせる余地もまだ十分にあります。グループ一丸となって、各国の良質な環境創造への貢献、ASEANへ進出したい日系企業の支援などを通して、バリューの最大化を図りながら、既に参画している国を主軸に投資を加速させつつ、シンガポールなどを含む未投資国への投資の積み上げも検討していきます。

小林今回の事業のように、海外での物流拠点が広がっていくことは本社の物流事業にとっても非常に大きなメリットです。当社が国内のみならず海外事業で得たネットワークやノウハウを、必要とする企業に提供していくことで、インフラのネットワークがより拡がり、様々な企業とウィンウィンの関係性を築けると考えています。

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Alpha Bangna
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Alpha Rangsit